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※以下の内容の一部は『矢印の力』を参考・引用しております。
■「矢印」と「矢型の図形」
今では世界中で使われている矢印。 この矢印は、いつ、どこで、だれが発明し、どのようにして広まっていったのでしょうか。 ここでは、矢印の起源と歴史について見ていきたいと思います。

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『薔薇物語』(1330年)。『矢印の力』より。


上の14世紀初頭の細密画には、人物を指し示す二本の矢が見てとれます。 しかし、この矢は手に握られたものであるため、 「矢印」というよりも、物体としての「矢」が図示されているものと考えた方がよいでしょう。

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1485年の地図。『矢印の力』より。


上の1485年の地図では、北を表すために矢印のようなものが使われています。 形としては現在の矢印とほとんど同じですが、 これも方位磁針の針を模したものであるため、概念としての「矢印」の使い方が確立されたとは言えません。


■「矢印」の誕生
概念的な矢印の使用は17〜18世紀ごろに始まったとされています。 下に示したように、1610年にガリレオが出版した『星界の報告』の手書き原稿には星の動きを表す矢印が、 また18世紀初頭の地図では、川の流れる方向を表す矢印が使われています。

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『星界の報告』(1610、ガリレオ)。 Wikipediaより。


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18世紀初頭の地図。『矢印の力』より。


こういった「矢印」の用法は1世紀程度遅れて日本にやってきます。 1875年に作られた『新撰日本全図』には、潮流の向きを表すために矢印が記されています。

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『新撰日本全図』(1875)。古地図コレクションより。



■矢印は本当に「矢の印」か
ところで、方向を表す記号としてなぜ矢が使われたのでしょうか。 確かに矢は一方向にしか進まないという特徴を持っていますが、 他に一つの方向性を持つものが記号化されても良かったはずです。

この点を矢印の歴史の流れから考えると、ある一つの意外な仮説が浮かんできます。 それは、矢が直接「矢印」になったのではなく、方位磁針の針が矢印のような形として図案化され、 それが「矢印」となったという考えです。

実際、地図で北を表す際に矢印が使われますが、 これは方位磁針で北を表す針に由来しているようにも感じられます。

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17世紀以前のものとされるコンパス。こちらこちらより。


また、地図というものは別の文化圏に真っ先にもたらされる書物であるため、 地図の広まりとともに矢印も広まったと考えると、 矢印が全世界で共通のアイコンであることの説明にもなります。

つまり、矢印は実は「針印」であるのかもしれません。


■まとめ
現在の意味での矢印は

17〜18世紀ごろにヨーロッパで使われるようになり、
1世紀ほど遅れて日本にも伝わった

ようです。

またその起源として、地図に記された方位磁針が記号化され、「矢印」として定着したという可能性が考えられます。

■おまけ
矢印が使われるようになったのは17〜18世紀ということですが、 それ以前に方向を表したいときはどうしていたのでしょうか。

下図のように、13世紀末の人体図ではリボン型の吹き出しを用いて部位と名前を結んでいます。 また、14世紀の文書では注釈の箇所を示すために指さしが用いられています。

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人体図(1293)と指差しの図(14世紀)。『矢印の力』より。


同様に、日本の1691年の地図でも、2点の結びつきを表す矢印が使えないため、 「室ヨリ兵庫、十七リ」と文字で始点と終点を表現しています。

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日本海山潮陸図(1691)。古地図コレクション


このように、私たちが当たり前のように使っている矢印も、 16世紀以前の文献で用いられていることはほとんどなく、 例えばレオナルド・ダ・ダヴィンチ(1452〜1519)のスケッチ (BRITISH LIBRARYの「SKETCHES BY LEONARDO」より) にも矢印は見当たりません。

様々な関係をごく簡単に表せる矢印。 もしダヴィンチが矢印を用いていたら、 もっと凄いアイデアが生まれていたのかもしれません。

2009.02.03掲載、2011.5.2修正